ツラろう

後鼻漏の原因と治療(1998年の論文より)

1998年と言えば結構な昔ではありますが、後鼻漏患者にとって重要なテーマですので紹介します。

念のための注意書きですが、あくまで当時の論文の内容の紹介です。現在の治療法や最新治療ではなく乖離があるかもしれないので留意してください。

論文の書誌情報

概要

後鼻漏を発生させる疾患を紹介し、診断穂法や治療方法が簡潔に書かれています。

ぱっと見た感じでは、現在でも変わりない点が書かれているように見えますが、前述しましたように同じであるという確信はありません。

後鼻漏を発生させる疾患

他にも鼻の疾患とは全く関係のない後鼻漏もあるようですが、原因が特定されていないとのことです。

また、後鼻漏と頭痛を主な症状とする「ソーンワルト症候群」という症状もあるそうです。

健常者の鼻水量

論文には上記のようなことも書かれていました。

後鼻漏の診断基準

  1. 後鼻漏が存在するか、もし存在するとすれば、
  2. その責任部位はどこか。
  3. その原因病変は何か。
  4. 後鼻漏はどの部位か。

後鼻漏の存在を確認するには前鼻鏡検査を最初に行いますが、後鼻漏の部分は鼻の奥のため視診が不可能だそうです。

鼻の穴からある程度の深さまでは正常でも後鼻漏になっていることはよくあるようで、咽頭の検査が必須です。

そこで、最も有効な器具はファイバースコープとなります。これなら後鼻漏が発生しているであろう部分まで見ることができます。

後鼻漏が見つかってとして、それが具体的に何処なのかを確認するためには、単純X線検査やCT検査が必要です。画像診断は後鼻漏にも使われるのですね。

続いて、後鼻漏が引き起こされた原因となる症状を確認します。副鼻腔炎が有力なのですが、前述したように他の可能性も十分にあり得ます。

鼻汁を調べる事である程度の鑑別ができそうですが、正確に調べるには鼻汁細胞診断という精密な診断が必要なようです。診断の例として、以下のように書かれています。

好中球優位では副鼻腔炎、好酸球優位では鼻アレルギー、好中球中に10%以上の好酸球を認められば両者の混在を考える事ができる。

指標となる細胞の状態でしっかりと判断ができるようですね。

最後に後鼻漏の状態を診断します。これは慢性副鼻腔炎の治療成績評価に用いられる分類と評点を利用した方が良いと書かれています。症状の深刻度合いや回復の度合いを示す際に有効なようです。

後鼻漏の原因

この論文にはかなりの情報が詰まっているので、いくつかに区切って記載します。

鼻汁(鼻水)について

後鼻漏の主な原因となる鼻汁は主として鼻・副鼻腔粘膜の分泌細胞から生産される粘液上皮や腺を介する水の移行、そして血液成分や組織液の移項により形成される。 このうち鼻汁の生産に最も重要な役割を果たすのは分泌細胞である。 慢性副鼻腔炎では腺細胞の増殖と肥大が鼻腔および副鼻腔粘膜に存在することが知られており、一方、杯細胞の増加はみられないことから、本症における鼻汁の過剰生産に鼻・副鼻腔の腺細胞が大きく関与しているものと考えられる。

鼻汁は水っぽいので水分があることは分かりやすいですが、血液に含まれ成分まで関与しているとは思いませんでした。

なお、腺細胞とは何かしらの分泌物を体外(又は血管内なのどの内側)に向けて分泌する機能を持った細胞のことです。

これが肥大化するから過剰な分泌が起り、大量の鼻汁がでるということですね。

好中球について

近年慢性の気道疾患における好中球の役割が重要視されている。 鼻・副鼻腔疾患においても鼻汁の主成分である糖蛋白のある種の遺伝子の発現と炎症生サイトカインであるIL-8遺伝子発現との相関が見られることや、慢性副鼻腔炎鼻汁ではIL-8が高知を示すことがしられている。

簡単に言えばIL-8が好中球を迷走させて悪さをするといえます。

この論文に書かれていますが、ラットを用いた実験では抗好中球抗体を投与することで分泌物の発生が抑制されたそうです。

ラットは医学の実験では良くつかわれていますが、ラットでの実験結果と人間の実験結果は待った同じになるわけではありません。しかし、臨床実験に入るまでの段階では非常に有効な実験方法です。ラットには申し訳ないですが…。

なお、好中球に関しては次のようにも書かれています。

慢性副鼻腔炎鼻汁中の炎症細胞の大部分は好中球であり、粘膿性鼻汁では好中球数は正常鼻汁に比し100倍以上に達している。

慢性副鼻腔炎で起る炎症の大半が好中球であることにも驚きましたが、水様性鼻汁ではなく粘膿性鼻汁であれば、普通の鼻汁の100倍も好中球が存在することには更に驚きました。

ちなみに、水様性鼻汁とは後鼻漏でよくある透明の鼻水のことです。

流動性が高く、後鼻から喉の方へ垂れてくる鼻汁です。

粘膿性鼻汁とは黄色から緑あたりの色がついた鼻汁で、炎症が進むと発生します。前述の情報を参考にしますと、この色の付いた鼻汁のなかには好中球が大量に含まれていることになります。

慢性副鼻腔炎の鼻汁の弾性

論文には、非常におもしろい内容が書かれています。それが、鼻汁の弾性についてです。通常の鼻汁に比べて慢性副鼻腔炎の鼻汁は弾性や粘性が高く、これを調査しようという趣旨です。

鼻汁の弾性に着目した調査は見たことがありませんでしたので、非常に興味があります。

論文ではスプリングなどを例に挙げて、弾性の性質について書かれています。ここで着目すべき点は、弾性や粘性が高くなった鼻汁は正常な鼻汁に比べて「しなやか」で「かたい」性質を持ってしまっているという点です。

一見当たり前に思えますが、実は非常に重要な点です。

副鼻腔炎の鼻汁は多量に分泌され、後鼻漏の場合は内側に垂れていきます。水様性でしたら飲み込んだりして簡単に途切れされることができるわけです。しかし、弾性と粘性の強い鼻汁ですと途切れる事なくずっと連なりへばりつきます。これを「鼻汁のロープ」といそうです。言い得て妙ですが、まさに実情を表していますね。

また、副鼻腔炎になると、粘液線毛輸送機能が低下しやすくなります。この機能がした状態で粘性や弾性の高い鼻汁が出るとその場に溜まってしまいます。その上次から次へと分泌され続けますから更につまり、ついには後鼻漏のように内側におしだされてきます。

後鼻漏の原因は確かに過剰な分泌液のせいではありますが、より悪化させている要因は鼻汁の弾性と粘性というわけです。

後鼻漏の治療

これまでの要因をもとに、論文では次の様な治療を提示しています。

  1. 鼻汁量を減少させる
  2. 鼻汁の高い弾性率と、粘性率を低下さて鼻汁を切れ易くする
  3. 鼻・副鼻腔の粘性線毛輸出機能を回復させる

上記の内容を踏まえて以下の方法を書いています。

鼻汁の減少

作用が明確に分かっていないそうですが、マクロライドの効果が期待できるそうです。

ほかにもネプライザーで投与されるすステロイドも効果が期待できるようです。

加えて、ラットで実験した流れだと思われますが、抗好中球エラスターゼ製剤というのも挙げられいます。この当時ではまだ臨書応用に至っていなかったようで、あくまで「効くかもしれない」というレベルのようです。

前述でご消化した薬物療法のページでは、マクロライドが第一の候補として挙げられているため、この当時からあまり状況は変わっていないのかもしれません。

弾性率と粘性率の低下

鼻汁の弾性と粘性を低下させて鼻汁と流動的にする効果を求める場合、局所投与によるシステイン製剤の効果が高いと書かれています。しかし、経口投与では効果が低いとされています。

詳細は書かれていませんが、局所投与というのは恐らく炎症部分に直接薬剤を投与する方法だと思われます。注射器辺りをしようするのかもしれません。

一方、口径投与とは錠剤などで口から薬を取り入れる方法です。体内に入ると言う点では同様ですが、薬の整形方法によっては胃などの酸性の消化液に晒されることもあるでしょうから、効果が薄いのかもしれません。

粘性線毛輸出機能の回復

粘性線毛輸出機能の回復に効果があるものとして、以下の方法を挙げています。

  • 生理的食塩水ネプライザー
  • 上顎洞洗浄療法
  • S-カルボキシルメチルシステイン
  • マクロライドの経口投与

中等度、高度の副鼻腔炎の治療

論文では、中等度や高度の副鼻腔炎の場合にはここまでで書いてきた方法(保存的療法)では治療が不可能であるとしています。

高度な状態になりますと外科的な手術が必要であり、その後に保存的療法と同様の治療が必要になるそうです。

悪化すると手術が必須であることに間違いはないそうですから、花粉症による副鼻腔炎には慣れている方も多いかもしれませんが気を抜くことはできません。

早め早めの対応が必要になると思われます。