ツラろう

後鼻漏を診察する医師のアンケート(1998年の論文より)

後鼻漏に絞った珍しいアンケートを行った論文があります。

後鼻漏に関する論文自体、数があまりなく、あって別の症状に関連しているなどが多い印象です。それだけに、このように後鼻漏に特化した内容のアンケートは貴重かと思います。

論文の書誌情報

論文に関する情報です。

概要

アンケートの質問は以下の通りです。

ご覧の通り、アンケートの対象は患者ではなく診察する医師の側です。なかなか興味深い内容ですね。

なお、調査対象は189人で、そのうちの114人から解答がありました。属性などの内訳は次の通りです。

性別  人数(割合)
男性 102人(89.5%)
女性 7人(6.1%)
未記入 4人(4.4%)
年齢  人数(割合)
50代 20人(17.5%)
40代 29人(25.4%)
30代 18人(15.8%)
勤務形態  人数(割合)
勤務医 40人(35.1%)
開業医 74人(64.9%)

調査対象施設の後鼻漏患者の割合

鼻漏はアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎で引き起される、日本では患者数が多そうなイメージの症状です。

このアンケートの冒頭に2010年の一年間で調査対象施設を訪れた後鼻漏の患者の平均数は、「139.0人(全体では868.8人)」と記載されています。また、後鼻漏の原因疾患の最大の集団は45%は慢性副鼻腔炎で、次いで23%のアレルギー性鼻炎でした。

アレルギー性鼻炎の方が多いのかと思っていましたが、慢性副鼻腔炎の方が多かったようです。ただ、全国平均ではなく、どうやら広島県を範囲としているようなので、他のと都道府県などでは又違う割り合いになるでしょう。極端な例を挙げると、沖縄県では花粉症患者が少ないと効きますし(海風の影響でしょう)。

後鼻漏患者を診察する頻度と患者背景 前述しましたが、調査対象施設では2011年の一月の外来患者数の平均は868.8人で、視診で確認できる後鼻漏の患者じゃ90.9人(10.5%)です。視診で確認できない後鼻漏(後鼻漏感と書かれています)は48.1人(5.5%)で、これらを合わせて139.0人(16.0%)となります。

患者背景としては以下のように書かれています。

年齢 人数
80歳代 13人
70歳代 41人
60歳代 46人
50歳代 29人
40歳代 10人
30歳代 4人
20歳代 4人
10歳代 7人
10歳未満 39人
関係ない 15人

論文には、幼少時層と中高年層の二極化になっていると書かれています。確かに、中高年の割合と10歳未満の子供の割合が高いです。

ただ、ここには書かれ例内のですが、仮に花粉症が完治しないとすれば、時間経過とともに年齢層があがり、患者数もスライドしていくと思われますので、これはあくまで調査時点での人数であることを理解しておいた方がよいのかもしれません。

もっとも、高齢者や子供は免疫力が弱く鼻の機能が弱いとえますので、その点では後鼻漏発生の理由になるかもしれません。この意味では、後鼻漏に患者として高齢者と子供が多い結果には頷けます。

続いて、後鼻漏患者の来院数を季節ごとに分けています。

季節 人数
30人
0人
23人
52人
関係ない 27人

夏が0人というのは驚きです。アレルギー性鼻炎から後鼻漏になった私などは夏も鼻炎が続きますので、診察にいく可能性があります。にもかかわらず0人とは…。予想外です。

後鼻漏の診断方法

診断についての部分は、積極的に後鼻漏を疑うかどうかなどの割合が示されています。また、後鼻漏を疑う際に問診で最も多い内容は「鼻汁がのどに降りる」でした。鼻汁が喉に降りたら、それはもう後鼻漏になっているというイメージですが、本人の感覚に寄るところも大きいので後鼻漏であることを100%確信できる訳ではないのでしょう。

問診の後の診断ですが、後鼻漏と診断するさいの診断のTOPは「鼻咽腔内視鏡検査」での診断がもっとも多いそうです。ついで、「副鼻腔X腺検査」「前鼻鏡検査」「後鼻鏡検査」最後に「アレルギー検査」がきます。内視鏡検査やX線検査の有用性は、以前の記事の「後鼻漏の診断基準」という段落でも見ましたし、間違いないでしょう。

後鼻漏の治療法

前述でご紹介しました「後鼻漏の診断基準」という部分でも触れていますが、後鼻漏が軽度の場合は薬物治療が基本になります。ですが、重度になると外科的な手術を用いないと治療は不可能とのことです。その上で、この論文のデータをご覧戴ければと思います。

以下は、慢性副鼻腔炎による後鼻漏の場合の薬物治療についてです。

種類 人数
粘性調整剤 86人
マクロライド系抗菌薬 80人
抗ヒスタミン薬 42人
他の抗菌薬 38人
抗LT薬 25人
局所ステロイド薬 14人
Th2阻害薬 7人
経ステロイド薬 2人
その他 5人

次は、恐らく私の症状と同じ、アレルギー性鼻炎による後鼻漏の薬物治療です。

種類 人数
抗ヒスタミン薬 85人
局所ステロイド薬 60人
抗LT薬 53人
粘性調整剤 42人
Th2阻害薬 16人
マクロライド系抗菌薬 11人
他の抗菌薬 6人
抗PGD2/TXA2薬 6人
経ステロイド薬 4人
その他 1人

「慢性副鼻腔炎の薬物療法について」という書籍を引用したページでご紹介した際には、マクロライド系が最も有効だと書かれていました。ですが、上記のように症状を分けて書いてはいませんでしたので、違いがでてくるのでしょう。

また、何を治療するべきかと言う判断で当然薬の選択は変わります。もちろん患部の種類によってもです。同じ症状名でも内情がまったく同じではない以上、ここに挙げた薬以外を処方されたとしても疑う必要はありません。例えば、抗ヒスタミン剤が最善の選択となる患者さんの数が他の症状に比べて比率的に多いというだけかもしれませんので。

この意味では、薬の有効度の順番ではなくこれらの薬が最善の選択となる症状の順番であるとも言えるでしょう。

結論

論文では、これまでのデータの総括が書かれていますので、一部引用します。

以上の結果からの解釈としては,一般的に免疫能や鼻副鼻腔機能が比較的低い幼小児や高齢者が,冬季に感染性の鼻副鼻腔炎に罹患する頻度が高いと,次いで春や秋に花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)に罹患する頻度が高いことなどの背景因子が関連しているものと考えられた。

診断方法に関しても一部引用します。

後鼻漏の診断方法は,鼻咽腔内視鏡検査での診察が最も多く,次いで副鼻腔X線検査,前鼻鏡検査などであり,従来の報告と同様な結果であった。

続いて、慢性副鼻腔炎の治療に関しては以下の通りです。

慢性副鼻腔炎による後鼻漏の場合,その治療目的は主に,

  • 鼻汁量を減少させる
  • 鼻汁の高い粘弾性を低下させ鼻汁をきれやすくする
  • 粘液線毛輸送機能を回復させる ことである。今回の調査では粘液調整剤が最も多く,次いでマクロライド系抗菌薬が多かった。 前者にはシステイン製剤や蛋白分解酵素製剤などが含まれており,弾性を低下させ鼻汁をきれやすくする作用を有し,またマクロライド系抗菌薬は鼻汁量を減少させ,粘液線毛輸送機能を回復させる効果がある

つぎは、アレルギー性鼻炎の治療に関してです。

一方アレルギー性鼻炎による後鼻漏の場合,慢性副鼻腔炎と比較すると鼻汁の粘稠度は低く,その治療目的としては

  • 鼻汁量を減少させる
  • 鼻粘膜腫脹を改善し,分泌物の停滞を改善させる
  • 鼻咽頭粘膜における過敏性を抑制させる ことであると考えられる。アレルギー性鼻炎の病態では種々のケミカルメディエーターの遊離と活性化が生じ,標的器官における神経刺激,粘液分泌や血管透過性の亢進などの特有の症状が発現する。 ケミカルメディエーターの中では,主にヒスタミンやロイコトリエンの関与が言われており,一般的に鼻汁量の減少に関しては抗ヒスタミン薬の有効性が,鼻粘膜腫脹の改善に関しては抗ロイコトリエン薬や局所ステロイド薬の有効性が期待できる。

この論文で触れられているのですが、アレルギー性鼻炎による後鼻漏の場合、研究があまり進んでいないそうです。そのため、医師はいろいろと手を考えながら治療を行っている模様です。

もちろん、鼻の分泌物が多いのであればそれを抑える薬を、と言うように各症状ごとに対応する薬は存在しますから、その種類や分量、投与の方法などで最善の形をさぐっているのでしょう。

従来の日本では、後鼻漏の発生原因は副鼻腔炎というのが一般的だったそうです。そのために、副鼻腔炎の治療を基本とした後鼻漏の治療方法や診断方法などを確立してきた経緯があるようです。その当時からアレルギー性鼻炎と後鼻漏の関係がクローズアップされていれば、より効果的な治療が可能だったのかもしれません。

ただ、最大多数の症状から治療に取り組むのは非常に正しいことですからやむを得ない点はあります。今後の研究として、アレルギー性鼻炎による後鼻漏の治療に進歩があることを願うばかりです。

しかし、こうしてアンケートを集計するだけでも実りの多い情報が手に入るものですね。誰が何をどうしたのかとういうデータに積み重ねが診断や治療の開発に役立っているのだという実感を感じました。こういった種類のアンケートをもっと増やしてもよいのかもしれませんね。