ツラろう

舌下免疫療法の治療法に関して(2015年の論文より)

最近医学系の専門情報以外でも目にすることが多くなった、アレルギー性鼻炎の治療法「舌下免疫療法」に触れられている論文がありましたのでご紹介します。

論文の書誌情報

論文に関する情報です。

大学などの研究機関ではなく、「ゆたクリック」という医院の方が書かれており、すこし珍しいかもしれません。

設備や人材面から研究機関に劣る部分はあるでしょうが、臨床の現場におられるのであればアドバンテージがあるかもしれません。 その地域で診療しているのですから、継続的な治療経過の観察が可能であり、かつ気候風土の特性もしっかりと把握できるでしょうから。

舌下免疫療法と皮下免疫療法

舌下免疫療法と皮下免疫療法について引用します。まずは基本的な部分。

スギ花粉症の皮下免疫と舌下免疫に用いる治療薬は同じ成分で,規定範囲内のアレルゲン量を含有するスギ花粉の精製液である.

対象となる部位が違うだけで、使うものは同じということです。

後でもう少し詳細に記載しますが、以下のようにも書かれています。

皮下免疫では再度薄い濃度からの増量期を長期間かけて行う必要があるが,舌下免疫では短期間の増量期でよく,手軽に行える利点がある.

舌下免疫療法

続いて、舌下免疫療法に関してです。

舌下免疫は2週間の増量期とその後の毎日の維持舌下投与からなり,皮下免疫に比べて増量期が短く,維持投与日数が多い

舌下免疫の投与時期には,1年を通じて投与する通年法と季節前から季節中にかけての投与を毎年繰り返す季節前季節中投与法がある.花粉症では両方法の治療成績に大きな差はないとされるが,経済的理由から季節前・季節中投与法が選択されることが多い.

決まった期間投与量が増し、その後は毎日継続的に投与が続くようです。毎日というのはさすがに大変ですが、通年法と季節前季節中投与法があり現実に即した選択もできそうです。

治療効果に差はないとされていますが、この論文では実験を兼ねており通年法で投薬回数を増やす選択がされています。

簡単にいえば、薬剤に含まれるスギ花粉濃度が決まっており、延べで必要な量を確保するには数を増やすしかないため、投与回数の多い通年法が選ばれたということです。

この論文では、『シダトレン』という薬剤が用いられ、増量期は2週間、維持期の投与間隔は毎日でした。 投与方法は「舌下滴下」。つまり、舌に薬剤を垂らす方法であり痛みはありません。

舌下嚥下法と舌下吐き出し法

なお、舌下免疫療法にはさらに2種類の方法があるので、その部分を引用します。

舌下免疫の投与方法には舌下に薬剤を保持した後に薬剤を嚥下する舌下嚥下法と,飲み込まずに吐き出す舌下吐き出し法がある

論文中ではこの2種類の効果に大差は無いと書かれています。

吐き出した際に、唾液とともに投与したアレルゲンが多少排出されてしまいますが、それでも飲み込んだ場合との吸収量などの差はないそうです。

結局、体に入る量というのはある程度の上限なり制限なりが働くのでしょうね。

皮下免疫療法

皮下免疫の維持量は症例ごとに異なり,増量期の皮膚反応の程度で決められる.

舌と皮膚という場所の違いで、投与日数に違いがあるそうです。 この論文では『標準化アレルゲン治療エキス「トリイ」スギ花粉』という薬剤を用いています。

維持機の投与感覚は月1回で増量期は約4-6ヶ月。ただし、症状により差が大きく平均化などには意味がない状態です。 投与方法は皮下注射ですから、痛みが多少あります。

舌下免疫療法の効果

論文冒頭には皮下免疫法に触れていたのですが、中盤以降には舌下免疫療法に関する内容しか見当たらないため、以降は舌下免疫療法に絞った内容を引用します。

まず、舌下免疫療法の実験は、266名に対して行われ、以下のような結果となりました。

実薬266名で開始されたシダトレンⓇ の臨床試験ではプラセボに対して鼻症状と眼症状ともに有意に効果的で,2シーズン目ピーク時に寛解と判断した例は17.0%%であり,一部で根治が期待できる結果であった.

根治と言う言葉に期待がもてるのですが、まず2シーズン目で効果を見極めるようです。

効果がある場合は1シーズン目よりも2シーズン目の方が効果がでており、全く変わらないのならばその人には効かない可能性が高いためです。

また、

舌下免疫を何年間継続すればよいかは今後の課題であるが,海外成績やわれわれの過去の検討からは2シーズンで終了せずに4~5年間行う方がよいと考えている.

治療中止後に症状が再燃した場合には1~2年間の追加免疫で効果が戻ると考えられる

とあり、継続的な投与は必須に近く、再発の可能性もあります。

どの程度で根治と呼べるのかわかりませんが、再発しても追加投与で治るとはいえ投与を続けることは必要ですし、治療が終わって一切スギ花粉に悩まされなくなる可能性には疑問を感じます。

もちろん、すべてが上手くいってスムーズに根治する人も要るでしょうから頭から否定するものではありませんが、安易な希望を抱くべきでもなさそうです。

舌下免疫療法の副作用

舌下免疫療法の副作用、といいますか、用いた薬剤である『シダトレン』には副作用があります。基本的には2%以下にしか出ない用ですし、命に関わるものではなさそうです。

が、鼻水で生活に支障をきたす我々後鼻漏患者です。命に関わるかどうかだけが気になる点ではないですから、軽くふれておきます。

舌下免疫は皮下免疫より明らかに安全であり,重篤な副反応はまれである.国内での舌下免疫のこれまでの臨床試験や臨床研究などでアナフィラキシー例はない.海外では十数例の報告があるが,致死的な副反応はない.

軽微な副反応は舌下免疫で多く,シダトレンⓇ の臨床試験での副反応率は266例中36例(13.5%),52件(19.5%)であった

##副作用例

副作用の例として以下のように挙げられています。

発生が1%未満の副作用は以下のとおりです。

続いて1-2%未満。

最期に頻度不明の副作用。

繰り返しになりますが、重篤なものはありません。

また、風邪薬でも胃薬でも副作用はありますから、免疫療法だからと無闇に身構える必要はないでしょう。気になるかたは、よく使われる薬の副作用を確認してみてください。おそらく似たようなことがらが書かれているかと思いますので。

期待はできるが楽ではない

長年に渡るスギ花粉によるアレルギー性鼻炎との戦いにかなり効果がある方法の模様です。通院可能な範囲に施術してくれる病院があるようでしたら試すのもよいですしょう。

ただし、一度で終わりなどという楽なことはなく、時間と期間が必要である点をしっかりと理解するべきです。

また、私のようにブタクサやハウスダストなど多くのアレルゲンが存在する場合、効果が期待出来るとはおもえません。免疫療法はあくまでアレルゲンごとに行う手法だと思いますので、同時にできるのか、そもそもハウスダストの免疫療法があるのか(時間ができたらしらべてみますが)などなど。

とはいえ、効果がある人にはあるのであれば、希望をもってもよいかしれません。

補記

以前に以下の記事を書いていますので、参考にご覧下さい。

アレルギー性鼻炎治療のアレルゲン免疫療法