
鼻水や後鼻漏に対する漢方薬の種類や効果などについての内容です。
「日本耳鼻咽喉科学会会報 Vol. 116 No. 10 p. 1093-1099 2013」の「耳鼻咽喉科領域における漢方治療」があり、この論文には「耳鼻咽喉科領域で多く用いられる漢方薬」と題した表が書かれていますので引用します。
部位 | 漢方薬名 |
---|---|
内リンパ水腫 | 五苓散,柴苓湯 |
耳鳴 | 牛車腎気丸,八味地黄丸,釣藤散 |
めまい | 苓桂朮甘湯,半夏白朮天麻湯,防已黄耆湯,真武湯 |
外耳道湿疹 | 消風散,治頭瘡一方,十味敗毒湯 |
アレルギー性鼻炎 | 小青竜湯,麻黄附子細辛湯,越婢加朮湯 |
点鼻薬性鼻炎 | 麻黄湯 |
慢性副鼻腔炎 | 葛根湯加川芎辛夷,辛夷清肺湯,荊芥連翹湯 |
嗅覚障害 | 当帰芍薬散 |
感冒 | 葛根湯,麻黄湯,麻黄附子細辛湯 |
口内炎 | 黄連湯,黄連解毒湯,半夏潟心湯,温清飲 |
口腔乾燥症 | 白虎加人参湯,麦門冬湯,滋陰降火湯 |
舌痛症 | 立効散,芍薬甘草湯,補中益気湯 |
急性扁桃炎 | 桔梗湯,小柴胡湯加桔梗石膏 |
咽喉頭異常感 | 半夏厚朴湯,柴胡加竜骨牡蛎湯,柴朴湯,六君子湯 |
咽喉頭逆流症 | 六君子湯 |
咳嗽 | 麦門冬湯,麻杏甘石湯,柴朴湯 |
上の表で後鼻漏に関連するのは、上記の「小青龍湯」に加えて、アレルギー性鼻炎に対応している「麻黄附子細辛湯」「越婢加朮湯」と、慢性副鼻腔炎に対応している「葛根湯加川芎辛夷」「辛夷清肺湯」「荊芥連翹湯」、咳(咳嗽)に対応している「麦門冬湯」「麻杏甘石湯」「柴朴湯」でしょうか。
ただ、この論文には以下のように書かれており、アレルギー性鼻炎に対する他の漢方薬の効果は微妙な印象です。
二重盲検比較試験によりエビデンスが明らかになっている薬剤は小青竜湯のみである
なお、この根拠は以下の論文だそうです。
馬場駿吉,髙坂知節,稲村直樹,他:小青竜湯の通年性鼻アレルギーに対する効果―二重盲検比較試験―.耳鼻臨床1995;88:389-406
小青竜湯は後鼻漏には効果があまりないという論文を見つけましたので次項に記載します。
実際にはあまり良くないこともありそうですが、漢方薬は長期にわたる服用を前提としている場合が多いようなので、筆者は比較的気軽に連続して飲み続けています。
漢方薬で体質改善、などができたこともなくアレルギー性鼻炎はなくなりませんが、花粉飛散時期の鼻炎悪化を遅らせくれる印象はあります。ただし鼻炎が始まってしまうとほぼ効果がないという認識です。
「耳鼻咽喉科展望 Vol. 43 No. 3 P」の「小青竜湯エキスのスギ花粉症の鼻炎症状に対する臨床効果」という論文がありましたので引用します。ページの構成上箇条書きにしていますが、各列それぞれが独立しています。
- 鼻汁に対する効果を検討した結果,改善が14.3%,やや改善以上が42.9%で,投与前との比較において,改善傾向(P=0.053)を示した。
- 鼻閉に対しては悪化症例が認められず,改善が21.4%,やや改善以上が50.0%で,症状は有意な改善(P=0.008)を示した。
- くしゃみ発作に対しても有意な改善効果(P=0.005)が認められ,改善が14:3%,やや改善以上が71.4%であった。
- 眼掻痒感に対しても効果が認められ(P=0.014),もともと症状を訴えない患者が35.7%であったが,症状を有する患者に対しては14.3%が改善,42.9%の患者がやや改善以上を示し,悪化症例は認められなかった。
- 後鼻漏に対する効果は認められず,流涙に対する効果はほとんどの患者がもともと症状がなく,効果の有無は判定不能であった。
引用部分をわかりやすく書くと、「小青竜湯と後鼻漏」については以下のようになるでしょうか。
「日本東洋学会誌 vol62 no.6」の「後鼻漏における小半夏加茯苓湯の有効性」という論文があるので引用します。
後鼻漏に小半夏加茯苓湯が奏効した症例を報告した。 近年では鼻症状に小半夏加茯苓湯を使用した報告はなく、水様の後鼻漏と振水音を目標に、小半夏加茯苓湯が適応となる後鼻漏があると思われる。
後鼻漏に聞いた事例があったようですが、よく読めば後鼻漏患者の一部にという程度で効果があるとは言い難い印象です。
ちなみに小半夏加茯苓湯の読み方は「しょうはんげかぶくりょうとう」。効能としては吐き気や嘔吐をおさえるようです。材料は以下の3つの生薬。
妊娠嘔吐(つわり)の改善に用いられるそうです。そのためか「つわりのための漢方薬」という印象が強いようで、もともと小半夏加茯苓湯には鼻炎などの鼻の症状に対しての効果はあまり関わりがなかったようです。
しかし、この論文の筆者の方が「漢方診療医典」にヒントを得て投与を思いついたそうです。
麗澤通気湯加辛夷は「れいたくつうきとうかしんい」と読むそうです。
「日本東洋学会誌 vol63 no.3 2012」にある「副鼻腔炎を目標に麗澤通気湯加辛夷を試みた5症例」から引用します。
びまん性汎気管支炎と副鼻腔炎。アレルギー性鼻炎と副鼻腔炎。気管支喘息と副鼻腔炎。これらのように、副鼻腔炎は多くの症状と合併しているそうです。そして、副鼻腔炎の治療を行う事で合併する症状に緩和にもつながるのでは、という考えに繋がったようで。
つまり、副鼻腔炎に漢方薬の麗澤通気湯加辛夷を用いることで、全体的な症状の緩和を最終目的としていると思われます。
なお、投与対象である患者の一部は麗澤通気湯加辛夷のみを服用していたわけではないそうで、実験の結果改善したとしても、かならずしも麗澤通気湯加辛夷が効いたとはいえないとのことです。
問診での話として、患者は自分で後鼻漏とは判断していないことが多いと書かれています。
医者の間では、副鼻腔炎に後鼻漏が伴うことが常識らしいですが、患者自身は後鼻漏との関係や後鼻漏自体を認識していないばあいもあります。問診時には「起床時に咽に痰のようなものがへばり付いていないか」などという積極的な質問をしないとだめな事例があったほどです。
論文には効能として、嗅覚異常、嗅覚障害、鼻づまり、アレルギー性鼻炎、慢性鼻炎、蓄膿症(副鼻腔炎) にたいして効果があると書かれています。使われている生薬は以下の通り。
- 山椒(さんしょう)
- 蒼朮(そうじゅつ)
- 麻黄(まおう)
- 羌活(きょうかつ)
- 白芷(びゃくし)
- 独活(どくかつ)
- 生姜(しょうきょう)
- 防風(ぼうふう)
- 大棗(たいそう)
- 升麻(しょうま)
- 葱白(そうはく)
- 葛根(かっこん)
- 甘草(かんぞう)
- 辛夷(しんい)
実験結果としては5例のうちの3例には効果があったと結論づけていますが、必ずしも麗澤通気湯加辛夷の効果とは言い切れないようです。
もともと、この漢方自体の効能が鼻炎に効果があるようなので、副鼻腔炎に対する効果は安心できるものなのかもしれません。しかし、他の症状の緩和ができているかどうかは微妙な印象です。
服用量によっては、上部消化器官に負担をかける場合があるとのことで、食後の服用や半量の投与などの工夫が推奨されています。